奈良・春日大社を訪ねて:広大な社領に息づく古の信仰と龍神の気配

斜め左正面から撮影した春日大社の中門。朱色の鮮やかな建築美。 京都市以外のエリア
(筆者撮影)

東大寺の大仏殿でその圧倒的な巨大さに心を奪われたあと、私はそのまま地続きとなっている「春日大社」へと向かいました。東大寺から春日大社の本殿までは、奈良公園の緑を楽しみながら徒歩で移動できる距離にあります。

しかし、一歩春日大社の参道に足を踏み入れると、先ほどまでの「建造物の巨大さ」とはまた異なる、圧倒的な「敷地の広さ」と、森全体が神域であるという独特の空気に驚かされることになりました。今回は、世界遺産・春日大社で体験した幽玄の世界と、神秘的な龍神巡りの記録をお届けします。

東大寺の「巨大」から春日大社の「広大」へ

東大寺を参拝した直後だったからこそ、その違いが鮮明に感じられました。東大寺が仏教の力を形にした「目に見える巨大な構造物」の象徴だとすれば、春日大社は自然と神々が一体となった「目に見えない広がり」を感じさせる場所です。

広大な敷地内には、中心となる本殿だけでなく、数多くの摂社(せっしゃ)や末社(まっしゃ)が点在しています。これら一つひとつの小さなお社を巡るうちに、当時の人々の信仰心がいかに深く、生活のあらゆる場面に神様の存在を感じていたのかを、肌で感じることができました。長い年月をかけて守られてきた春日山の原始林が、その信仰の深さをよりいっそう強調しているようでした。

回廊を彩る三千基の灯籠と「藤浪之屋」の幽玄

春日大社の回廊に下げられた黄金色の灯籠


(筆者撮影)

春日大社といえば、多くの人が「灯籠(とうろう)」を思い浮かべるのではないでしょうか。参道に並ぶ石灯籠、そして御廊(回廊)に吊り下げられた釣灯籠の数は、合わせて約三千基にも及ぶそうです。

実際に目にすると、朱塗りの回廊にずらりと並ぶ黄金色や青銅色の灯籠は、息を呑むほどの美しさでした。「これら全てに火が灯されたら、どれほど幻想的なのだろうか」と、夜の参拝に思いを馳せていたところ、その願いを叶えてくれる場所がありました。それが江戸時代の蔵を改装した「藤浪之屋(ふじなみのや)」です。

暗闇の藤浪之屋の内部で灯る灯籠


(筆者撮影)

中に入ると、そこは完全な暗闇。その中に、たくさんの灯籠が灯されています。暗がりに浮かび上がる無数の灯火は、まさに「幽玄の世界」。鏡に反射してどこまでも続く光の列を見ていると、現代にいることを忘れ、平安時代や鎌倉時代の神事の真っ只中に迷い込んだような錯覚に陥りました。

龍神に導かれる「春日五代龍神めぐり」の神秘

春日大社には、目的や願いに合わせて摂社・末社を巡る3つの公式参拝コースが用意されています。私は個人的に「龍」という存在に惹かれることもあり、迷わず「春日五代龍神めぐり」を選びました。

このコースは、広い境内に祀られている五つの龍神様(穴栗神社、井上神社、水谷神社、青龍神社、金龍神社)を順に参拝するものです。

神社を訪れると、よく「空気が変わる」と言いますが、この龍神巡りはまさにその連続でした。深い森の奥へと進むにつれ、空気の密度が濃くなり、水のせせらぎや木々のざわめきが神様の声のように聞こえてきます。全ての龍神様を巡り終えたとき、体の中に清らかなエネルギーが満ちていくのを感じました。

大袈裟かもしれませんが、最後のお社を参拝したあとは、自分自身が何か神秘的な存在に一歩近づけたような、背筋がスッと伸びる感覚がありました。この感覚こそが、古来より人々がこの地を聖域として崇めてきた理由なのだと確信しました。

春日大社周辺のおすすめ神社仏閣スポット

春日大社の参拝後、さらに奈良の深みを知るために訪れたい周辺スポットをご紹介します。

1. 東大寺(とうだいじ) 言わずとしれた奈良のシンボル。春日大社とは徒歩圏内で、セットでの参拝が定番です。南大門の仁王像や大仏殿のスケール感は、春日大社の繊細な美しさとは素晴らしい対照をなしています。

2. 興福寺(こうふくじ) 奈良公園の入り口に位置する名刹です。五重塔はもちろん、国宝館にある阿修羅像の美しさは必見です。春日大社からの帰り道に立ち寄るのにも最適な場所にあります。

3. 新薬師寺(しんやくしじ) 春日大社から南へ少し歩いた場所にある静かなお寺です。本堂(国宝)に並ぶ十二神将像の迫力は圧巻。観光地の喧騒を離れ、静かに仏像と向き合いたい方におすすめの穴場スポットです。

春日大社へのアクセスと拝観料金まとめ

これから参拝される方のために、基本情報をまとめました。

アクセス方法

 

  • 徒歩の場合: JR・近鉄奈良駅から徒歩約25〜30分。東大寺からは、大仏殿から徒歩約15分ほどで春日大社の参道入り口に到着します。

  • バスを利用する場合: JR奈良駅、近鉄奈良駅から市内循環バス(外回り)で「春日大社表参道」下車、徒歩約10分。または「春日大社本殿」行きのバスで終点下車約5分。

拝観料金

  • 境内参策: 無料

  • 本殿前特別参拝(回廊内): 700円 ※「藤浪之屋」の灯籠鑑賞はこの特別拝観エリアに含まれます。

  • 萬葉植物園: 大人 700円 / 小人 250円

  • 国宝殿: 大人 700円 / 大学・高校生 400円 / 中・小学生 300円

※情報は2025年現在のものです。最新の状況や特別行事については公式サイトをご確認ください。

おわりに:日常を忘れ、自分を整える場所

東大寺でもそうでしたが春日大社でもあちこちに鹿がいました。鹿は神の使いとして古くから保護されてきたためで、鹿せんべいを売っているところも自販機を含めてたくさんあります。初めて鹿せんべいをあげたときは、何頭もドドッと寄ってきてびっくりしましたけどね。

神の使いとされている春日大社の鹿


(筆者撮影)

春日大社は、単なる観光地ではなく、今もなお人々の祈りが息づく生きた聖域でした。

灯籠の明かりに癒やされ、広大な森の中で龍神様の気配を感じながら歩く時間は、忙しい日常でささくれ立った心を優しく整えてくれます。参拝を終えて鳥居をくぐり、再び日常に戻るとき、少しだけ新しい自分になれたような気がしました。

奈良を訪れる際は、ぜひゆっくりと時間を取って、この広大な神域を歩いてみてください。きっと、あなただけの「神秘的な瞬間」に出会えるはずです。

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